支払資金残高とは
支払資金残高とは、社会福祉法人会計特有の概念であり、流動資産と流動負債の差額から求めることができます。ただし、以下の3項目は除外されます。
(1)一年基準により固定資産または固定負債から振り替えられた流動資産または流動負債
(2)引当金
(3)貯蔵品以外の棚卸資産
当期末支払資金残高の算定
当期末における支払資金の残高(当期末支払資金残高)は、前期末支払資金残高に、当該事業年度における収支差額(すべての収入と支出の差額、当期資金収支差額)を加算して算定されます。
また、当期末支払資金残高は資金収支計算書の最下部に表示されます。
当期末支払資金残高の保有制限
当期末支払資金残高には上限額が定められており、当該年度の委託費収入の30%以下とすることとされています。これを一般的に30%ルール、30%基準と呼んでいます。
この規定は指導監査において非常に重要視されており、超過した場合は文書指摘となる可能性もあります。
30%ルールについては、その算定方法について各自治体が独自に基準を定めていることもあり、委託費収入に補助金等を加えた額を分母として割合を求めることができる場合があります。算定方法については各自治体に確認が必要です。
また、30%ルールの超過が見込まれる場合には、積立資産を積み立てることによって、当期末支払資金残高を減額させる措置が必要となります。
前期末支払資金残高の取崩し
前期末支払資金残高の取り崩しにあたっては、事前に所轄自治体と協議を行う必要があります。予算と実績の状況を分析し、当期資金収支差額がマイナスになる可能性が高いと見込まれる場合には、事前協議を自治体に申請しなくてはなりません。
ただし、自然災害その他やむを得ない事由がある場合、または取り崩し額の合計額がその施設における事業活動収入計(予算額)の3%以下である場合には、事前協議を省略することができるとされています。
認可保育所の弾力運用の要件をすべて満たしている場合
弾力運用の要件をすべて満たしている場合には、事前に所轄自治体と協議を起こった上で、以下の目的のために前期末支払資金残高の取り崩しを行うことができます。
(1)当該保育所を設置する法人本部の運営に要する経費
(2)同一の設置者が運営する社会福祉法第2条に定める第1種社会福祉事業及び第2種社会福祉事業 並びに子育て支援事業の運営、施設設備の整備等に要する経費
ただし、社会福祉法人と学校法人は事前協議の必要はなく、理事会の承認で上記2点の目的のために前期末支払資金残高を取り崩すことができるとされています。
支払資金残高の取崩しによる本部経費の支出
上述のように、本部の経費を支出するためには事前協議を経た上で前期末支払資金残高を取り崩すことが必須となっています。
これを知らずに保育所の資金から本部経費を支出したことにより、指導監査において指摘され、本部から保育所に資金を返還するといったケースもあります。
また、このようなケースでは、支出の一部が否認されたために当期末支払資金残高が増加し、30%ルールを超過することになるなど、連動して他の指摘につながることもあるため非常に注意が必要です。
本部経費の範囲
事前協議によって支出することのできる本部経費は、「人件費支出」及び「事務費支出」とされています。このため、例えば本部における固定資産の取得を保育所から支出することはできません。
また、事務費支出であっても必ずすべて認められるというわけではなく、役員を対象とした生命保険料や交際費など、特定の者に利益を供する性格の支出は協議時に否認される傾向にあります。
本部経費の算定
事前協議で承認された本部経費の額はあくまで上限額であり、承認額の全額を支出することができるわけではありません。
本部経費の実績額を運営する施設、各事業に合理的な基準で按分した金額を、保育所の支出として計上することができます。
また、事業活動計算書、資金収支計算書に本部経費を計上する場合、人件費(支出)や事務費(支出)の各科目に含めるのではなく、「拠点区分間繰入金費用」など、内部取引科目に支出額の全額を計上すべきとされています。
まとめ
今回の記事では支払資金残高の取り扱いについて解説していきました。特に本部経費の支出に係る事前協議は法人を運営していくうえで非常に重要な手続きです。
この手続きを怠ると、本部経費の支出が否認されるのみならず、30%ルール超過の指摘を受けるといった副作用にもつながりかねませんので、毎年必ず協議書を提出することが重要です。
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