保育所会計センターブログ

【認可保育所における委託費の弾力運用】

保育,弾力運用

認可保育所では保育料を保護者から直接受け取るのではなく、定員・地域などに応じで定められた公定価格に基づいて算定された運営費が自治体から支弁されます。
この運営費を委託費といいます。

委託費は、内閣府から発出された「子ども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」(経理等通知)により、その使途や保有について制限がなされています。
原則として、委託費は支弁された保育所の運営に直接要する経費にしか使用することができませんが、一定の要件を満たすことでその他の目的のためにも支出することが可能です。
これを「弾力運用」といいます。

弾力運用を行うには、一定の要件を満たしている必要があります。
要件は複数あり、充足する要件が多いほど委託費の使途、金額の上限が増えていくことになります。
まず、一つ目の要件は以下の7項目をすべて満たしていることです。

① 児童福祉法(昭和 22 年法律第 164 号)第 45 条第1項の基準が遵守されていること。
② 委託費に係る交付基準及びそれに関する通知等に示す職員の配置等の事項が遵守さ
れていること。
③ 給与に関する規程が整備され、その規程により適正な給与水準が維持されている等
人件費の運用が適正に行われていること。
④ 給食について必要な栄養量が確保され、嗜好を生かした調理がなされているととも
に、日常生活について必要な諸経費が適正に確保されていること。
⑤ 入所児童に係る保育が保育所保育指針(平成 20 年3月 28 日厚生労働省告示第 141
号)を踏まえているとともに、処遇上必要な設備が整備されているなど、児童の処遇が
適切であること。
⑥ 運営・経営の責任者である理事長等の役員、施設長及び職員が国等の行う研修会に
積極的に参加するなど役職員の資質の向上に努めていること。
⑦ その他保育所運営以外の事業を含む当該保育所の設置者の運営について、問題とな
る事由がないこと

これら7項目は、認可保育所を運営する以上まず間違いなく遵守されているはずです。

委託費は人件費、管理費、事業費に区分されており、その区分を超えた支出はできません。
しかし、上述の弾力運用の要件1を満たすことで、区分を超えた支出が可能となります。
例えば人件費分として支弁された委託費を管理費に支出することができるのです。
この他、人件費積立資産、修繕積立資産、備品等購入積立資産の3種類の積立資産を積み立てることもできるようになります。

続いては二つ目の要件です。弾力運用の要件1を満たしたうえで、次の事業等のいずれかを実施していることが必要です。

① 延長保育事業
② 一時預かり事業
③ 乳児を3人以上受け入れている等低年齢児童の積極的受入れ
④ 地域子育て拠点事業又はこれと同様の事業と認められるもの
⑤ 集団保育が可能で日々通所でき、特別児童扶養手当の支給対象障害児の受入れ
⑥ 家庭支援推進保育又はこれと同様の事業と認められるもの
⑦ 休日保育加算の対象施設
⑧ 病児保育事業又はこれと同様の事業と認められるもの

弾力運用の要件2を満たすことで、弾力運用の要件1の特典に加え、処遇改善加算の改善基礎分相当額を限度額として、以下の運用を行うことができます。

① 同一設置者である保育所等に係る次の経費等への充当

 (1)保育所等の建物、設備の整備・修繕、環境の改善等に要する経費
 (2)保育所等の土地又は建物の賃借料
 (3)(1)、(2)の経費に係る借入金(利息を含む)の償還又は積立のための支出
 (4)保育所等を経営する事業に係る租税公課
② 第一段階の積み立てのほか、「保育所施設・設備整備等積立資産」への積み立て

①でいう「保育所等」とは、保育所及び保育所以外の子ども・子育て支援法に規定する特定教育・保育施設である認定こども園・幼稚園及び特定地域型保育事業である小規模保育事業・家庭的保育事業・事業所内保育事業・居宅訪問型保育事業を指します。

最後に、弾力運用の三つ目の要件です。要件1及び2を満たしたうえで、以下の3つの要件を満たすことで、委託費を支出することができる範囲がさらに広がっていきます。

① 企業会計による損益計算書、児発第295号(保育所の設置認可等について)に定める貸借対照表を備置き、閲覧に供していること。
②毎年度、次のアまたはイが実施されていること。
 ア 第三者評価加算の認定を受ける
 イ 入所者等に対して苦情解決の仕組みが周知されており、第三者委員を設置して適切な対応を
   行っているとともに、入所者等からのサービスに係る苦情内容及び解決結果の定期的な公表
   を行うなど、利用者の保護に努めること
③ 処遇改善等加算の賃金改善要件(キャリアパス要件含む)のいずれも満たしていること。

弾力運用の要件3を満たすことで、弾力運用の要件1及び2の特典に加え、処遇改善加算の改善基礎分相当額まで、以下の運用を行うことが可能となります。

① 同一設置者が実施する次の経費への充当
 (1)子育て支援事業を実施する施設の建物、設備の整備・修繕、環境の改善及び土地の取得等に
    要する経費
 (2)(1)の経費に係る借入金(利息を含む)の償還又は積立のための支出
② 同一設置者が実施する社会福祉施設等の次の経費への充当
 (1)社会福祉施設等の建物、設備の整備・修繕、環境の改善、土地の取得等に要する経費
 (2)社会福祉施設等の土地又は建物の賃借料
 (3)(1)、(2)の経費に係る借入金(利息を含む)の償還又は積立のための支出
 (4)社会福祉施設等を経営する事業に係る租税公課

弾力運用の要件3を満たした場合、特典(1)のほか、以下の運用を行うことができます。この特典(2)は非常に重要で、この特典を利用しないと運営ができない保育所も多いと思います。

① 同一設置者が実施する保育所等に係る次の経費への充当
 (1)建物、設備の整備・修繕、環境の改善、土地の取得等に要する経費
 (2)保育所等の土地又は建物の賃借料
 (3)(1)、(2)の経費に係る借入金(利息を含む)の償還又は積立のための支出
 (4)保育所等を経営する事業に係る租税公課
② 同一設置者が実施する次の経費への充当
 (1)子育て支援事業を実施する施設の建物、設備の整備・修繕、環境の改善及び土地の
    取得等に要する経費
 (2)(1)の経費に係る借入金(利息を含む)の償還又は積立のための支出

②でいう「子育て支援事業」とは、学童、地域子育て支援拠点等子ども子育て支援法第59条に定める事業及び企業主導型保育事業を指します。

今回の記事では委託費の使途に関する基本的な考え方や、弾力運用の要件、特典を解説してきました。
弾力運用は認可保育所を運営していくうえで非常に重要な制度です。
特に要件3の特典を受けることができない場合、施設家賃の支出や借入金の返済を行うことができなくなり、保育所運営に多大な影響が生じることになります。
要件3を充足しているか、監査の前だけではなく定期的に確認を行うようにしてください。

【委託費の弾力運用】
【弾力運用の要件(1)】
【弾力運用の要件(2)】
【弾力運用の要件(3)】
【認可保育所の積立資産】

・認可保育所の委託費に係る弾力運用や経理のご相談をご検討の場合は、こちらのページにサービス概要を記載しております。

この記事の監修者

株式会社アダムズ
代表取締役 堀井淳史
公認会計士・税理士・行政書士

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