
委託費の他拠点への繰入
本記事では、委託費の他拠点への繰入について解説します。
認可保育所には、所轄の自治体から委託費としてその保育所の運営に要する費用が支弁されます。
そして、この委託費は、支弁された保育所の人件費、管理費、事務費に使用することが原則とされており、同一の法人が行う他の事業への繰り入れは禁止されています。
そのため、指導監査においては、委託費の他拠点への繰入について確認がなされ、他拠点への委託費の繰入が発覚した場合には文書指摘となる可能性もあります。
だだし、委託費の他拠点への繰入については、全面的に禁止されているわけではなく、一定の要件を満たした上で、範囲を限定して委託費の他拠点への繰入を行うことが許可されています。
そこで、今回の記事では、委託費の他拠点への繰入を行うための要件や、その範囲について詳しく解説していきます。
委託費の他拠点への繰入を行うための要件
認可保育所が委託費の他拠点への繰入を行うためには、少なくとも弾力運用の要件を第二段階まで充足している必要があります。
また、第三段階まで充足している場合は、他拠点へ繰り入れることのできる金額及び支出の範囲が大きくなります。
第一段階、第二段階の要件は、ほぼすべての保育所で充足しているためここでは詳細な解説は行いませんが、第三段階の要件は以下の3項目すべてを満たしていることです。
※第一段階、第二段階の要件は、以下の記事で解説を行っております。
- 決算書を保育所に備えおき、閲覧に供している。
- 以下のいずれか実施されている
- 第三者評価加算の認定を受け、サービスの質の向上に努めている。
- 入所者に対して苦情解決の仕組みが周知されており、第三者委員を設置して適切な対応を行っているとともに、入所者からのサービスに係る苦情内容及び解決結果の定期的な公表を行うなど、利用者の保護に努めている。
- 処遇改善等加算の賃金改善要件(キャリアパス要件含む)のいずれも満たしている。
委託費の他の認可保育所への繰入
弾力運用の要件を満たしている場合は、同一法人が運営する他の認可保育所へ、当該年度の委託費の3ヶ月分相当額の範囲内で以下の経費の繰り入れが可能です。
- 建物、設備の整備・修繕、環境の改善、土地の取得等に要する経費
- 保育所等の土地又は建物の賃借料
- 上記2点の経費に係る借入金(利息部分含む。)の償還
- 保育所等を経営する事業に係る租税公課
ただし、上記の経費については、繰入元の保育所においても必要となります。
そのため、同一法人が運営する他の認可保育所は、委託費の3ヶ月分相当額から繰入元の保育所のために必要な支出の額を差し引いた残額を限度とすることになります。
なお、上記で列挙した経費のうち「租税公課」については、法人税、住民税及び事業税も含まれます。
委託費の認可保育所以外の施設への繰入
弾力運用の要件を満たしている場合は、他の認可保育所だけではなく、同一法人が運営する認可保育所以外の施設への繰り入れも可能となります。
なお、特定教育・保育施設(認定こども園、幼稚園)、特定地域型保育事業(家庭的保育、小規模保育、居宅訪問型保育、事業所内保育)は、経理等通知における保育所等に該当しますので、認可保育所に繰り入れる場合と同一の条件での繰り入れが可能です。
委託費の子育て支援事業への繰入
弾力運用の要件をすべて満たしている保育所の場合、同一法人が運営する子育て支援事業への繰り入れも可能です。
ここで、子育て支援事業とは、子ども子育て支援法第59条に定める事業(学童、地域子育て支援拠点等)及び企業主導型保育事業をいいます。
ただし、保育所等へ繰り入れる場合と異なり、繰り入れることのできる経費は、以下の2点とされています。
- 子育て支援事業を実施する施設の建物、設備の整備・修繕、環境の改善及び土地の取得等に要する経費
- 1の経費に係る借入金(利息部分を含む。)の償還又は積立のための支出
委託費の社会福祉施設等への繰入
弾力運用の要件をすべて満たしている保育所では、同一法人が運営する社会福祉施設にたいし、以下の経費を繰り入れることができます。
- 建物、設備の整備・修繕、環境の改善、土地の取得等に要する経費
- 社会福祉施設等の土地又は建物の賃借料
- 上記2点の経費に係る借入金(利息部分含む。)の償還
- 社会福祉施設等を経営する事業に係る租税公課
ただし、社会福祉施設等の場合、繰り入れることのできる限度額は委託費の3ヶ月分相当額ではなく、処遇改善加算Ⅰの改善基礎分相当額となり、その金額は小さく設定されています。
前期末支払資金残高の取り崩しによる繰入
弾力運用の要件をすべて満たしている保育所の場合は、所轄自治体との事前協議(社会福祉法人及び学校法人においては理事会)により承認を得た上で、前期末支払資金残高を取り崩しを行い、当該取崩額を他拠点への繰入が可能となります。
なお、繰入が可能な経費は、以下のとおりです。
- 当該保育所を設置する法人本部の運営に要する経費(人件費及び事務費に限る)
- 同一法人が運営する社会福祉法に定める第一種及び第二種社会福祉事業並びに子育て支援事業の運営、施設設備の整備等に要する経費
- 同一法人が運営する公益事業の運営、施設設備の整備等に要する経費(※社会福祉法人のみ)
なお、法人本部の経費と公益事業の経費は、当年度に交付された委託費からの支出は禁止されています。
そのため、法人本部の経費と公益事業の経費への委託費の繰入は、前期末支払資金残高の取り崩しによる繰り入れのみ認められることになります。
上記より、法人本部の経費と公益事業の経費への委託費の繰入にあたっては、事前協議や理事会承認の手続きに漏れがないか注意が必要です。
まとめ
今回の記事では、認可保育所が委託費を他拠点に繰り入れることのできる条件について解説していきました。
経理等通知で定められた限度額、経費の種類の範囲内で繰り入れを行っていない場合、指導監査において文書指摘となる可能性が高くなります。
特に前期末支払資金残高の取り崩しによる繰り入れには事前協議や理事会承認が必要なことから、事後的な対応ができないため、手続きに漏れがないよう毎年度定期的に確認を行うことが重要です。
関連記事
・【認可保育所における委託費の弾力運用】
・【支払資金残高の取り扱い】
・【本部経費と事前協議】
関連サービス
・認可保育所の委託費に係る弾力運用や経理のご相談をご検討の場合は、こちらのページにサービス概要を記載しております。